um-humリリース記念インタビュー① 「PLASTIC POP」

大阪を拠点にする4人組・um-humが、連続リリース企画の第2弾として「Plastic L」と「Popcorn」からなるダブルAサイドシングル「PLASTIC POP」を配信した。R&Bやファンク、ジャズやヒップホップ、ロックなどのさまざまなジャンルや、サイケデリック、プログレッシブ、ポップといった概念を織り交ぜながら、独自の存在感を放つ。そんなum-humワールドの中で、キャリア史上もっともシンプルな構成ながら多様なレイヤーが潜む「Plastic L」と、トリッキーに展開しつつもストレートにテンションを高めてくれる「Popcorn」。それぞれが圧倒的で、2曲を並べたときの不思議なコントラストもまた興味をそそる。今回はそんな作品の制作プロセスやそこに込めた想いを軸に、メンバー全員にインタビューを行い、um-humの現在地を探った。

――私はum-humに“カオスとポップのあいだでオリジナリティを追求してきたバンド”という印象を持っています。そして今回の連続リリースは、そんな一つのフェーズが集大成に向かっているように思うのですが、いかがですか?

ろん れのん(Gt&Key):複数人が集まるグループでやる以上、やり始めはどうしても試行錯誤、右往左往すると思うんです。僕らは、メンバーそれぞれルーツがバラバラで我も強いので、なおさらなんじゃないかと思います。それでも、3年以上このメンバーでやってきたことで、何か核のようなものが見えてきた感覚はありますね。曲に統一感が出てきたとか、そういうことではなくて、いろんな曲がある中でのum-humらしさみたいなものの、解像度が上がってきたんじゃないかと思います。

――今回は最新のダブルAサイドシングル、「Plastic L」と「Popcorn」からなる「PLASTIC POP」にフォーカスを合わせて、その“um-humらしさ”とは何なのかを紐解いていきたいと思っています。まず、両曲はいつ頃に完成したのですか?

ろん:「Plastic L」は2019年の後半、バンドの最初期からある曲をブラッシュアップしたもので、「Popcorn」はもっとも新しい曲ですね。

ろん れのん(Gt&Key)

――1stミニアルバム『2020』から2ndミニアルバム『steteco』、そして現在を比べてみると、さきほど言った“カオス”と“ポップ”における“ポップ”の強度が増してきたように思います。そこで訊きたいのが、曲の作り方に変化はありましたか?例えば、いわゆるAメロ・Bメロ・サビといった考え方の介入度が上がったとか。

ろん:結成したばかりの頃は、バンドが何たるかも、J-POPの概念もぜんぜん理解していませんでした。それからしばらくして作った「Plastic L」も、サビにあたる部分が最後に1回だけ出てくる、みたいな曲でしたし。

――そうだったんですね。

ろん:um-humの制作は、僕がデモを作ってそれをメンバーみんなで発芽させていくやり方なので、最初から曲の情緒をみんなにちゃんと伝えることは大切にしていたんですけど、当初は右も左もわからない中で、まさに手探り、カオスだったと思います。メンバーも、僕が何を言ってるのかわからなかったんじゃないかと。

たけひろ(Ba):今もよくわからないことは往々にしてありますけどね(笑)

ろん:(笑)。それでも前のミニアルバム『steteco』あたりから、「ここは盛り上がるところね」とか「ここがブリッジで」とか、曲のパートによって言うことに具体性とメリハリが付いてきたことは確かなんじゃないかと。それ以前はそういう思考回路自体がほぼなかったので。「“ポップ”の強度が増してきた」とおっしゃったのは、そういうことだと思います。

たけひろ:昔からろんがデモを作った段階で、それはもうum-humなんです。そこからどうポップに落とし込んでいくかという、メンバーの共通意識のベースになる考え方が、制作を続けていく中で、はっきりしてきたように思います。

小田乃愛(Vo):私は、その共通意識は持てていると思うんですけど、正直、Aメロ・Bメロ・サビとか、バース・コーラス・ブリッジといった概念をまだ掴めていなくて、だから、ろんから「これにメロディと歌詞を付けて」ってデモを投げられたときに、適当にと言うと誤解を生むかもしれませんが、すごく感覚的なんですよね。それが一発でハマったのが、今回の「Popcorn」です。

――メロディは基本的に小田さんが?

小田:『steteco』の曲と今回の連続シングル、9月と10月に出すEP2枚に向けての曲の歌詞とメロディは、ろんとの共同作業もありますけど、ほとんど私が作っています。

ろん:今の僕は、各パートの役割を意識しながら、わりとカッチリとメロディを付けていくタイプだと思います。それに対して小田は、サビやデモから感じ取れる緩急は意識しつつも、フリースペース感覚みたいな。そんな二人の異なるアプローチがバリエーションを生んで、um-humならではのおもしろさになっていると思います。

小田乃愛(Vo)

――では、「Plastic L」と「Popcorn」、それぞれについて詳しくお伺いします。まず「Plastic L」は、バンドの最初期からあった曲だということですが、どのように今回の完成形になったのでしょうか。

ろん:um-humが走り出したばかりの頃は、tricotや相対性理論といった明確なロールモデルに向かっていました。そこからしばらくして、のちに1stシングルになる「GUM」を作ってライブで演奏するようになった頃に、なんとなく僕らにしかできないことが見えてきて、その流れで作った曲ですね。それを今の感覚でブラッシュアップしました。

小田:タイトルは、私の音楽の師匠みたいな、歌詞にも出てくるSさんという人が作った「Paradox L」という曲からきています。Sさんがビートメイクが楽しくなくて、音楽を止めるとか言っていて、音楽を教えてくれたSさんがそんなこと言ってるのは悲しいなと思って書いた部分もあります。

――歌詞では<plastic Love>という言葉が出てくるので、私はてっきり竹内まりやさんへのオマージュが曲のどこかにあって、歌詞とタイトルでもそれを表したのだと思いました。

ろん:そう思われますよね。でも、“Plastic”というワードに意味はなくて、ほんとうに自分でもなぜだかわからないくらい突発的に浮かんだんです。で、“L”はSさんの曲からですから、竹内まりやさんの「プラスティック・ラブ」は好きですけど紐付ける意図はなくて、あとでハッとしました。

――トラックのイメージについてはどうですか?

ろん:最初はもっとヒップホップっぽくいこうとしたんですけど、あまりはまらなくて、変化を付けていきました。

――確かに、ループの気持ちよさはヒップホップが根っこにあって、そこに歌心や展開を加えていったのかなと。シンセベースの不思議なフレーズとリズムの揺れが心地良くて、これは意図的にずらしたのですか?

ろん:いいえ。当時僕はGrageBandで曲を作っていたんですけど、クオンタイズを知らなくて、「せっかくおもしろいベースのフレーズが前に出ているのに、ずれちゃってるな」と思っていました。でも、それはそれでいいかって。僕は正確性よりもニュアンス重視なんで、良さがメンバーに伝わりさえすれば何の問題もないと思っているんです。あとは3人の力を借りればどうにかなる。

――ドラムはどんなことを意識しましたか?

Nishiken!!(Dr):音は生音とサンプリングのハイブリッドです。金物とスネアはスタジオで録って、キックはしっくりくる音を必死で探しました。ビートはシンプルな8ビート寄りで曲調も単純なぶん、音を良くすることに注力したことで、自分のドラムに対する考え方が深まりましたね。

――ベースにずれが生じているなかで、グリッドに対してはどう向き合いましたか?

Nishiken!!:そこはガチガチにはめました。ベースもシンセも宇宙を遊泳しているようなフワッとした感じがあって、ドラムもそのノリに合わせたら曲が崩壊しそうな気がしたので、そこを地球の重力で引き寄せて引き締める、みたいなイメージですね。

たけひろ:グリッドの部分をドラムに担ってもらうことで、曲に芯ができたと思います。ベースはその上で遊ぶ感覚で、作っていきました。

たけひろ(Ba)

――このトラック、歌は大変じゃなかったですか?

小田:ろんの送ってくる音源はだいたいわかりづらいです。クオンタイズがなんちゃらとか、そんな話は私も今知りましたし(笑)。ニュアンスで投げてくるんですよ。例えるなら、50m走やのに100m走らされてる、みたいな。

――50mが100m?

小田:すみません、例えが悪かったです(笑)。ようするに、規格外の歌を歌えって言われている気がするんですよ。でも、私は理論的にどうこうというよりニュアンスを汲み取るほうが向いているので、それでいいのです。ライブを重ねるごとに自分なりに変化を加えていって、最終的なレコーディングに挑みました。

――あらゆる音や歌のマッチングによって、いい世界観とグルーヴが出ていますよね。

ろん:デモはもっとイーブンで、ライブでも無機質レベル高い感じだったんですけど、もっと跳ねた感じのとっつきやすい曲にしてもいいなって、思っていたんです。Nishiken!!のこだわったキックが良くて、奇跡的に竹内まりあさんの「プラスティック・ラブ」みたいに、グルーヴ感が増し増しになっていて、すごく気に入ってますね。

小田:ライブでも、去年の秋くらいからノリやすい感じに変えていったんですけど、横ノリの人もいたり縦ノリの人もいたり、楽しみ方に幅があることもum-humらしさだと思います。

Nishiken!!:この曲のビートは、Nujabesの「Love (sic.) pt3」の世界観をイメージして作りました。自分にとってのNujabesは、出かけるときの電車の中で聴くとか、生活の一部なんです。なので、そういう楽しみ方もおすすめです。

――「Popcorn」はライブで盛り上がりそうなダンスチューンです。でも、ややもするとリズムが取りにくくなりそうなギリギリのラインというか、けっこうトリッキーなことをされているんですよね。すごく興味深いです。

ろん:去年の10月に開催された『MINAMI WHEEL』のエントリーが夏に完了したあと、ちょっとお休み期間があったので、せっかくだから新しいモードのライブで披露しておもしろそうな1曲を作ろうと思いました。最初は歌のない状態のビートだけで持って行ったら、メンバーの反応がなかなかのチンプンカンプンで(笑)

――16ビートのノリで入って、4つ打ちになって、また16になって、最後は4つ打ちと情熱的なギタープレイでグイグイ引っ張るのかと思ったら、部分的に3拍子を入れて揺さぶってくる。

ろん:ですね。いろいろやっています。

――複雑さを感じることなく、それぞれのパートのシナジーによって、テンションがどんどん高まっていくんですよね。

ろん:そこにあるグルーヴ感はデモだと出せないんですよ。だからリズム隊に?マークが浮かんでいて、おもしろかったです(笑)。でも結果的にはそんなに苦労することなく、アレンジできました。

Nishiken!!:僕は休み期間に自分自身の音楽的なルーツをあらためて遡っていたんです。その時に聴いていたGil Evansの「Half Man – Half Cookie」という曲の16の感じがうまくはまったので、あとはあまり悩まずにできましたね。

Nishiken!!(Dr)

――3拍子なる部分は、ろんさんがもっとも大きなルーツはThe Beatlesだと公言されている前情報があったので、「We Can Work It Out」を意識されたのかなと。

ろん:作っていた時にThe Beatlesが浮かんでいたわけではないんですけど、無意識に受けた影響が出ちゃうくらい好きですからね。でも、3拍子を入れた時に、「The Beatlesやったらここに歌入れるやろうな」とは思いました。それってまさに「We Can Work It Out」ですもんね。僕的なポイントは、4つ打ちと裏打ちの上で、ギターリフだけは三連になっているところ。3拍子は、このまま4つ打ちのバイブスでこのまま最後まで行くと見せかけて、アクのような何かが浸食してくるイメージで、そこに至る布石としてそうしたんです。

――歌詞はなかなか個性的というか、ぶっ飛んでいるというか。

小田:聴いてくれる人の楽しみ方を限定したくないから、歌詞に対する言及はほどほどにしておきたいんですけど、この歌詞はほんとうに大した意味はありません。と言うのも、デモが送られてきた休み期間、私はいろんなお薬に手を出していて(笑)

――薬?

小田:。安全なやつ、睡眠薬です(笑)。寝る前に飲んで、頭の中が意味の分からないことになっていく感じと、曲のいろんなリズムで揺さぶってくる気持良さがリンクしたので、これはもうあの状態を歌にしようって。それでメロディと歌詞を乗せていたら楽しくなってきて、ピアノの音を加工したおかずとかもめっちゃ足して送り返しました。「イエーイ!」って。めちゃくちゃお気に入りの曲ですね。

――そしてこの先、さらに7月12日と8月16日にシングルをリリースして、9月13日と10月11日にEPを。盛りだくさんですね。

ろん:ほんとうは出し惜しみしたいタイプなんですけど、一切の出し惜しみなし。さらに連続リリースと銘打っているのに、そこにストーリーや波みたいな、そういうのもなし。計算や忖度なく、勢いでドカドカ殴りかかる感じでやっています。だから、順番は関係ないうえで、um-humの歴史を感じてほしいですね。上に伸びていく階段ではなくて、横の階段みたいな。

――順番は関係ないうえでの歴史?横の階段?すみません、よくわからないんですけど。

たけひろ:ですよね。僕もわからないです。デモも、いつもこんな感じで送られてくるんすよ(笑)

小田:で、みんなで考える。

ろん:めんどくさいですよね。

小田:ほんまに(笑)

――バンドっていいですね。では、この先のリリースも楽しみにしています。

ろん:シングルは全体像を意識してコンセプチュアルにというよりは、1曲単位で向き合ったものが中心で、“シングルで出したい曲=EPに入れたい曲”ではないので、実際EPには入らない曲もあります。EPも1枚のアルバムでもよかったところを2枚にわけていて、トータルでum-humのいろんな側面をじっくり楽しんでもらえるようになっていると思いますので、よろしくお願いします。

Text:TAISHI IWAMI
Photo:ayumu harada

Release Info

タイトル:PLASTIC POP
 M1:Plastic L
 M2:Popcorn
 M3:Plastic L (slow Sped up)
リリース日:2023年6月14日(水)
配信リンク:https://nex-tone.link/A00118508
「Popcorn」MV:https://www.youtube.com/watch?v=4CrRXBbOl4Q

Profile

大阪発プログレッシブR&Bバンド。 1st mini album「[2O2O]」が全国のタワーレコードスタッフが話題になる前の新人をお勧めする「タワレコメン」に選出。 そして、収録曲「Ungra(2O2Over.)」がJ-WAVE「SONAR TRAX」に選出され、TOKIO HOT 100にもランクインするなど、注目を集める。 全楽曲の作曲を手掛ける、ろんれのん(G)はビートルズ、ジャミロクワイ、ロバート・ グラスパー、川谷絵音などを筆頭に様々な音楽から影響を受けるも、その作風は一聴してもルーツが分からないオリジナリティ溢れる作品を作っている。 そして、ジャズ研育ちによる楽器パート3人全員による卓越した演奏と、ジャケットのイラストを全て手掛け、作詞の一部も行い、ライブパフォーマンス時にはイスを持ち込んで座りながらも、観る者の眼を捉えて離さない魅力的なステージングを繰り広げる小田乃愛が一体となって、20年代の音楽を鳴り響かせる。