um-hum リリース記念インタビュー② 後編 「曇りくらいが丁度いい」

前編「JABU IN/TOHO」編はこちら

――続いては8月16日にリリースされた「曇りくらいが丁度いい」について訊いていきます。これは雨の日のことを歌った「JABU IN」との繋がりはあるのでしょうか?

小田:いえ、続きでリリースしたのでそう感じる方もいらっしゃるかもしれませんけど、ストーリーに関連性はありません。人間って、感情を使い過ぎると疲れちゃうじゃないですか。それが「めっちゃ楽しい!」っていうポジティブな感情だったとしても。「曇りくらいがちょうどいいよね」って、そんな曲です。

――ネオソウルからの影響をダイレクトに感じさせつつ、その根っこが一筋縄では伸びていかない感じ。um-hum独特の温度感や浮遊感が上手く溶け合っていますね。

ろん:僕の性格的な話でもルーツへの想いという意味でも、「それをそのままやってもしゃあない」という気持ちは染み付いているんだと思います。そうですね。ソウルっぽい曲が作りたくて、Erykah Baduとか、そのあたりのソウル/ネオソウル系のリファレンスを小田のところに持っていって、というのが始まりですね。ある部分では「TOHO」と方向性は同じというか、歌重視でそんなにテクニカルなことはしていなくて、いかにヌルッと気持ちよくなってもらえるか、みたいな。最初はアルバム曲かカップリング曲のイメージだったんですけど、レコーディングしてミキシングが終わった音源を聴いた段階で、めちゃくちゃ気に入ったんでシングルにしました。

――ドラムの音が表情豊かでいいでね。この曲で16ビートなのもおもしろいですし。

Nishiken!!:ゆったりした曲だったから16ビートにしたくなくて、ろんに「4か2でいいんじゃない?」って何度か提案したんですけど、「絶対に16がいい」って言うんですよ。で、僕は諦めてやっていたら、いい感じになってきました。音に関しては過去一こだわりましたし自信を持っていますね。エンジニアの方も「これサンプル売れるで」って。もっとも気に入ってるのは最初のスネア、サビの直前のところですね。低音のザクザクした感じ。あの一打の懸けていると言ってもいいくらいです。

――ベースはすごくシンプル。サビでボーカルとユニゾンしているフレーズがすごくよかったです。

たけひろ:めちゃくちゃシンプルにしましたね。

ろん:ボーカルとベースがユニゾンしているところ、僕も好きですね。雰囲気でやっている感じ。ありそうでない気がするんです。

――メロディはすごく綺麗で、でも少し不安定で、そこにリアリティを感じました。

小田:メロ、この曲はけっこう難しめですよね。「なんでここで跳ねるん?」とか、でも、いつもそうなんですけど、ベースとドラムも打ち込みで入ったデモに合わせて音をはめていくなかで、わざと外してみたり、そういうことを楽しんでやっていたらそうなってきてるんですよね。あと今回は、イメージの部分でキリンジから受けた影響もありました。ふだんは、特に制作のときは好きな音楽へのリスペクトがあるからこそ、引っ張られないように頭の中から遠ざけるんです。でもこの曲は、キリンジの優しく包まれるようなメロディの感じを、そのままはできないし真似しても仕方ないけど、私なりに出せないかなって。しかし、こうして振り返ってみても難しい。自分で作っといて、ラスサビとかほんとうに音程取るの大変で(笑)

――ライブで聴きたいですね。最近ライブをやる場所が広がってきている印象があるのですが、高まってきている感触はありますか?

Nishiken!!:最近アコーステック編成で演奏する機会が増えてきたことも嬉しいですね。自分たちの楽器のスキルがもろに出て、それをふだんよりも近い距離でお客さんに感じてもらえる。音楽の原体験的な感じを味わえたことは貴重な経験になりますし、この先にも活かされると思います。

ろん:リリースを重ねることでライブへの気持ちも変わってきますし、アイデアもバリエーションも増えてくるので楽しいです。

――そして9月13日と10月11日には2枚のEPをリリースされます。

小田:インタビューしてくださっていたらわかると思うんですけど、私、話すことがあまり得意じゃないんです。ほんまは嫌い。とか言ってけっこう喋ってますけど(笑)。私はそういう会話では言葉にはできないことを、音とか歌詞とかメロディにしている部分が大きくて。作品を投げかけることはコミュニケーションの手段とか社会との繋がりでもある。だからこうして2枚のEPを連続でリリースできることはすごく楽しみですし、みなさんの感想も聞きたいです。

ろん:自分たちが作ったものをリリースすると、アナライズの結果や数字が出るじゃないですか。それはとても興味深いことですし、いい結果もほしくなる。そうなると自分たちを取り巻くカルチャーとかシーンの状況も大事になってくる。という考えがありつつ、正直あまり考えてないんですよね。もっとこう、作品って100年後とか200年後とか、そういうスケールで残るおもしろさがあるじゃないですか。そのなかでum-humらしさみたいなものを突き詰めていきたいんです。それはエバーグリーンみたいなものでもないし、The Beatlesのようなスーパーレジェンドになりたいとか歴史に名を残したいとか、そんな大層なことではなくて。誰かがどこかで「こんな面白い人たちがいたんだよ」みたいに話しているみたいな。そういう作品を作りたいし、今回もそのつもりで作ったので、ぜひ聴いてください。

Text:TAISHI IWAMI

Release Info

タイトル:曇りくらいが丁度いい
リリース日:2023年8月16日(水)
配信リンク:https://nex-tone.link/A00120585

Profile

大阪発プログレッシブR&Bバンド。 1st mini album「[2O2O]」が全国のタワーレコードスタッフが話題になる前の新人をお勧めする「タワレコメン」に選出。 そして、収録曲「Ungra(2O2Over.)」がJ-WAVE「SONAR TRAX」に選出され、TOKIO HOT 100にもランクインするなど、注目を集める。 全楽曲の作曲を手掛ける、ろんれのん(G)はビートルズ、ジャミロクワイ、ロバート・ グラスパー、川谷絵音などを筆頭に様々な音楽から影響を受けるも、その作風は一聴してもルーツが分からないオリジナリティ溢れる作品を作っている。 そして、ジャズ研育ちによる楽器パート3人全員による卓越した演奏と、ジャケットのイラストを全て手掛け、作詞の一部も行い、ライブパフォーマンス時にはイスを持ち込んで座りながらも、観る者の眼を捉えて離さない魅力的なステージングを繰り広げる小田乃愛が一体となって、20年代の音楽を鳴り響かせる。