新東京 ONE-MAN LIVE “NEOGRAPH”ライブレポート
アンコールを含めて約1時間15分のショーを観終わって、私はなんとも表現しがたい不思議な高揚感の中にいた。
まず言っておくと、この日渋谷WWWを埋めた満員のオーディエンスの前で新東京が見せたパフォーマンスは素晴らしかった。詳細はレポートとしてこのテキストに記述するとして、私が彼らのどこに感銘を受けたのか――ライブが終わったばかりでは判然としなかったが、少し時間の経った今なら全てでないにしてもこういうことなのでは、という端緒を示すことはできる。それはこういうことだ。
新東京というバンド、そして彼らがクリエイトする音楽は、簡単には理解できない。だからこそ魅力的なのだ。彼らの音楽をこれと言ったジャンルで言い表すことは不可能だし意味がない。彼らは曲ごとに服を着替えるように装いを変え、ジャンルとジャンルの境界に意図的に紛れ込んでいる。リリースを追ってきた身としては、特にこれまで4枚のEPごとに示されてきたそれぞれの方向性に毎回驚かされるばかりだ。それがライブで肉体性を伴ったとき、どのような表現になるのか、それが楽しみだった。
果たして彼らの音楽は――繰り返しになるが――やはり簡単には理解できなかった。複雑で難解というのではない。彼らの放つ独特のグルーヴはオーディエンスの体を揺らす単純にカッコいいものだ。ライブにおける個々人の力量は相当なレベルで、その4人が合わさったサウンドのさらにその奥には彼らの描くもっと深い世界が待ち受けているということがわかる。けれど誘われるままそこに足を踏み入れた瞬間、目の前は真っ白になって自分がどこにいるのかわからなくなる。まるで“新東京”という知らない街に迷い込んだみたいに――。
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SEとしてフロアに流れた「Pearl」と実際の演奏で始まった1曲目「ポラロイド」がシームレスにつながっていく。その2つが接続することで目の前のライブの光景がより鮮やかに心に焼き付けられた。どんな派手な演出よりも見事にオーディエンスの心理を誘導し、尚且つ曲の世界を描き出す、これ以上ないオープニングだった。
バンドの配置は下手(ステージに向かって左)から保田優真(Dr)、大蔵倫太郎(Ba)、杉田春音(Vo)、田中利幸(Key)。さらにステージ上にはメンバーが着ているのと同じ白い衣装がオブジェのように舞台装飾として機能している。このアイテムはファッションブランド “L’essentiel est”のファースト・プロダクト。約1年ぶりとなったワンマンライブは新東京による新ブランド立ち上げを記念したものであり、会場では即売会も行われ賑わいを見せた。音楽だけにとどまらず、様々なカルチャーの垣根を超えて広がり続ける新東京の物語が幕を開けた。
「よくわからないんですけど、めちゃくちゃ感極まっちゃいました」(杉田)
2曲目「ショートショート」の途中で一瞬杉田が言葉に詰まる場面があった。それを指しての言葉なのだが、ここにたどり着くまでの道のりがそう簡単なものではなかったのだなということが想像された。それはとりも直さず、ブランドの立ち上げやライブの準備などをメンバー本人たちが中心に行ってきたということの証拠でもあった。音楽をはじめとした全てのクリエイティブを直接届けられるライブの場というものの尊さをアーティストだけでなく観ている我々も改めて感じることができた。
「Metro」「ユートピアン」「シエスタ」と3曲をインプロ的につないで表現したあとには、「36℃」「曖させて」へ。乾いた都市をすり抜けるように吹く風に身を任せていると、そのまま夜の世界に置き去りにされている。新東京のライブを観て感じたのは、曲の表現が映像的であるということだ。VJがいるわけではないが曲ごとに映像が思い浮かぶのだ。それはもちろんそこで歌われる言葉の影響も大きいのだが、それだけではなくもっとプリミティヴな体験としての映像と言ったらいいだろうか。例えば「Metro」では架空の都市を俯瞰して真上から眺めている絵が頭から離れなかったし、「ユートピアン」ではベンチがひとつポツンと置かれた情景とともに体が揺れた。きっとそれは私だけではないはずだ。この場にいた多くの人がそれぞれの映像を思い浮かべていたのではないだろうか。それほどに彼らのライブにおけるサウンドの映像喚起力は自由で強力だった。
「正直こんなたくさんの人が観に来てくれるとは思ってなくて。最初、春音が(言葉に詰まっているとき)笑ってるのかなと思ったけど。それを見ておれも感極まりそうになりました」(田中)
夜の帳、という言葉をそのまま音で表現したかのような大蔵の雄弁なベースソロに導かれ、気づけば「濡溶」のポエトリーリーディングの世界に足を踏み入れている。いよいよライブはあらゆるものの境界を超えて何もかもが入り混じる混沌へと突入していく。
「Cynical City」では、ドラム、ベース、キーボードの順にソロを回して行った。ただ各自のテクニックを披露しただけではなく、徐々に曲の輪郭が現れるようなコラージュ的な手法で、フロアの歓声を浴びた。
次に披露した「sanagi」は、9曲目の「Heavy Fog」と同じようにかなり大幅なアレンジが施されたものになっていた。最初のヴァースがアカペラではじまる「sanagi」は、原曲と比べてグッとBPMを落としたサウンドになっており、新東京にあって珍しいタイプの曲に生まれ変わっていた。ちなみに「Heavy Fog」は、言葉のアタックを強調したボーカルがファンク寄りのグルーヴを生み出すものとなっていた。たんにライブ用のアレンジということではなく、曲の根本を解釈し直している。特に言葉を音と捉え直しつつ、そこに描かれている独特の世界観をより浮揚させるようなアプローチが、おそらく彼らが今纏いたいものなのに違いない。
本編ラストは「Morning」。メロディに対してキーボードの速いパッセージが気持ちの良いズレと、だからこそのグルーヴを生む。強力な間奏で意識をぶっ飛ばされそうになったところで、ものすごく重大な発表がなされた。来年2月から3月にかけて全国6都市を巡るツアーが決定したというインフォメーションだった。ファイナルは3月20日(水・祝)@LIQUIDROOM。オーディエンスが沸いたところで間奏に戻るという心憎いばかりの演出は、皆が喜んではまる罠のように爆発的な効果を及ぼしライブをクライマックスに導いた。曲終わりにさらに、ドラムの保田とベースの大蔵がそのままステージに残りアウトロ的にインプロの応酬を見せ、迫力ある演奏で締めた。
ステージに放置されたベースの残響音が会場を駆け巡る中、アンコールを求める拍手が鳴り止まない。まるでその、残されたノイズがすでに語られた物語のさらに先を辿るようにアンコール1曲目「#Vaporwave」へと続く。各パートが独立しつつ微妙な接地面だけで全体がつながっている難易度の高い楽曲だ。この曲で試みたものの答えが来年のツアーにあるのではないかと思った。もちろんそれは、簡単に理解できるものではないだろう。しかし、我々が求めているのは、まさにそのようなものなのだ。簡単に善悪の物差しで測れない物事、簡単にタイプ分けなどできない人間の本性……彼らの描く“新東京”という都市がどのような姿になるのか、私はしばらくそこにとどまるつもりだ。
Text:谷岡正浩
セトリプレイリストもSpotifyにて公開中
新東京Live Tour「NEOCRACY」
特設サイト:新東京 Live Tour「NEOCRACY」|HOT STUFF PROMOTION”新東京 Live Tour「NEOCRACY」
SHIZUOKA
February 23 Fri.Holiday
Live House UMBER
OPEN17:30 / START18:00
FUKUOKA
February 25 Sun.
OP’s
OPEN17:30 / START18:00
OSAKA
March 02 Sat.
Umeda Shangri-La
OPEN17:30 / START18:00
NAGOYA
March 03 Sun.
Shinsakae Shangri-La
OPEN17:30 / START18:00
SENDAI
March 09 Sat.
LIVE HOUSE enn 2nd
OPEN17:30 / START18:00
TOKYO
March 20 Wed.Holiday
LIQUIDROOM
OPEN17:30 / START18:30
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